こっそり見てる?
先生,動物の保険って,入っておいたほうが良いですか?
そんな質問を,よくいただきます。
決して模範解答ではないと思いますが,私はこう答えています。
この子のために,毎月1万円づつ貯金してください。10年後には120万円になっています。それだけあれば,十分な獣医療が受けられますよ。使わずにすめば,それに越したことはありません。
でも,貯金する自信がなければ,保険会社に支払いしておくのも手段の一つですね。
Tさん宅のロックちゃんは,9歳のビーグル犬。右側の腋窩ちかくの皮下腫瘤が増大してきたということで,来院されました。
同腫瘤は,10ヶ月前に針吸引検査(しこりに,針を刺して細胞をとり,顕微鏡で観察する検査法)で脂肪のみ認められたため,脂肪腫の可能性が最も高いと診断しています。脂肪腫は,良性腫瘤であり,転移はせず,命にもかかわらないので,経過観察して良いというプランでした。ただし,針吸引検査は,たまたま悪性細胞が取れなかっただけということがあり,増大時には再検査が必要です。また,良性腫瘤でも腋窩にあると,増大した場合には歩行しづらくなり,摘出したほうが良い場合があります。
サイズをチェックすると倍の大きさになっており,再度針吸引検査を行いました。その結果,やはり脂肪のみ採取されたため,脂肪腫と診断しました。通常は,放置してよいものですが,歩行で違和感を覚えるなら,摘出したほうが良いでしょう。もし,とらなかった場合は,相当大きくなることがありますが,命に別状はないものです。
結果を説明すると,突然Tさんが,
「もう,この子絶対,通帳見てる!!」
「え,通帳ですか?」
「だって,やっと貯まってきたと思ったのに,タイミング良過ぎるんですよ。」
意味が良く分からずに説明を聞くと,ロックちゃんのために貯金しているお金が,ある程度まとまると,具合が悪くなって使うことになるということでした。
確かにロックちゃん,2年前は発作の症状で,脳のMRIの撮影をおこなっていますし,1年前は全身麻酔下で歯の処置を行っています。
どうやらタイミングよく,通帳から引き出されているようなのです。
一同,ロックちゃんを見つめると,プイとそっぽを向いてしまいました。
診察室には,Tさんの朗らかな声が,いつもでも響いているようで,明るい1日となりました。
病気の多い身体は辛いけど,お母さんがTさんで良かったね,ロックちゃん。