未来
「先生,ちょっと相談に乗って欲しくて,聞いてもらえますか。」
「薄情な男と思われるかもしれないけど,あいつが死んでから家の中が凄く寂しくてね。知人が,新しい犬を飼えというんです。」
「もう,だいぶ大きくなっているから,お前が引き取らないと,行く所がないぞって,おどすんですよ。」
「そんなこと言われて,顔を見ちゃったら,俺の性格からしたら,連れてきちゃうと思うんですよ。」
「ほんと,あいつはずるいんですよ。」
「でもきっと,女房は,アミが死んで間もないのにって,言うだろうしね。」
「確かに不謹慎だよね。」
「でもね,俺も凄く寂しくて・・・,今日もね。」
「あいつのリード持ってね・・・,」
「いつもの公園をね,散歩しているんです。」
「先生は,どう思いますか?」
自分のことを薄情と言いながら,その心は,本当は誰よりも厚いSさんの独白に,私は,いつの間にか泣いていました。
気持ちを落ち着けて,できるだけ冷静に,ゆっくりと話しました。
「とてもナーバスな事柄で,これが絶対正しいという答えは,ないんだと思います。」
「ペットを失って,すぐに新しい子を迎えることができる方もいれば,永遠に新しい子を迎えない方もいらっしゃいます。」
「どちらも,正しくて,自然なことなんです。」
「Sさんの心にしたがって下さいとしか,私には。」
私の答えにSさんは,困った表情でした。その時,ふと気づいたのです。Sさんは,模範解答を聞くために来たんじゃない。私の声を聞きたいのだと。
だから,続けて言いました。
「ただ,アミちゃんは,自分を思って悲しむお父さんより,新しい子と笑顔で暮らしているお父さんを,天国から見ている方が,幸せなのではないでしょうか。」
Sさんは,今もアミちゃんの思い出と共に,公園を散歩されています。
新しい,やんちゃな子犬を一緒に連れて。
未来にむかって。