親子喧嘩
地震後,振るえ,食欲低下,吠えやすい,人にべったりくっつくというような声が,多数寄せられています。程度の差はあれ,犬が地震により不安を感じるのは,間違いないでしょう。側にいる人が地震により,パニックになったりすると,不安が犬に伝染する可能性があります。強い地震で不安を感じるときこそ,落ち着きはらって“大丈夫だよ”と一言だけワンちゃんに言ってあげてください。過剰な励ましは,返って不安をあおります。飼い主の方の落ち着いた姿勢こそが,犬を安心させる最も良い薬なのです。
Fさん宅のゴンちゃんは,10才のチワワ。地震があってから,なんか様子がおかしいということで,来院されました。
診察室で,開口一番,Fさんが
“先生,地震で犬が怖がるなんてことがあるのですか?”
おやおや,いつも温和なFさんの声のトーンが少し高く,ちょっと様子が変です。よく伺ってみると,職場にいるゴンちゃんは,夜になると一人になるそう。Fさんのお嬢さんは,地震で不安になっているゴンちゃんを家に連れて帰りたいけれども,Fさんは,ゴンちゃんの生活ペースを変えることのほうが返ってよくないと考えており,軽い(?)親子喧嘩を一日中していたとのことでした。
地震後のゴンちゃんは,食事をすぐに食べず,建物の中に入ろうとしないということでした。
身体検査上,ゴンちゃんに大きな異常は見当たりませんでした。体重も,変化はみられず,摂取カロリーは十分であると考えられました。
“犬という動物は社会性が強いので,同じ場所にいることよりも,人といる方が不安が少ないです。猫の場合は逆で,場所が変わることのほうが不安を感じます。ゴンちゃんの行動異常が地震による不安から起こっているならば,自宅に連れ帰り,一緒にいてあげたほうが良いでしょう。
もし,食欲の改善がない場合には,もう高齢ですから血液検査など行いましょう。”
“先生が言うなら,間違いない。家に連れて帰りましょう。おかげで,親子喧嘩も決着がつきました。”
と笑顔のFさん。
ゴンちゃんを思う愛情深い親子喧嘩に,こっそり吹き出してしまいました。
だって,ここだけの話ですが,もう立派な社会的地位のある親子なんですよ。
※東北地方太平洋沖地震に被災された方々に,私はここで適切な言葉をみつけることができません。言葉より,心に従った行動が大切だと考えました。微力ではありますが,ふかみ動物病院として,日本赤十字社に義援金10万円を寄付しました。