冷静
“あー,良かった。これで,安心しました。”
安堵のTさんの顔に,私も嬉しくなりました。
“抗体価の測定を提案することはありますが,飼い主様から希望されたのは,はじめてです。よくご存知でしたね。”
“もう,必死になって調べました。”
Tさん宅のピーニャちゃんは,2歳のチワワ。
子犬の時の混合ワクチン接種で,顔面が強く腫れるというアレルギー反応が生じ,以後のワクチン接種が怖くて行えなかったということでした。しかし,追加接種の時期は過ぎて,不安はつのるばかり。犬のワクチン抗体価を測定できることを自ら調べ,お問い合わせしてくださったのでした。
犬の必ず免疫をつけておくべき重要なウイルス性疾患は,狂犬病,ジステンパー,パルボウイルス,伝染性肝炎です。これらの主要な疾患のワクチンの効果は,血液検査により抗体価を測定することで知ることができます。ワクチンの効果は個体差があり,毎年接種していても免疫が不十分な子もいれば,3年以上たっても十分な免疫を有する子もいます。どの子も抗体価の測定を行い,その子にとって最も良いオリジナルのワクチンプログラムを行うのが理想ですが,検査のコストはワクチン接種と同額程度かかるため,殆どの子は推奨プログラムに沿ってワクチン接種が行われています。
検査は,1ml程度の採血ですみ,1週間ほどで結果がでます。抗体価が高ければ,すぐに追加接種する必要はありません。一方,顔面が腫れるというワクチンの副反応は,稀にみられる,比較的軽症のアレルギー反応であり,殆どの場合次の接種は問題がありません。抗体価が低い場合には,やはりワクチン接種を行ったほうが良く,結果として費用が倍になってしまうことをご説明しました。
Tさんは,まずピーニャちゃんの抗体価のチェックを行い,抗体価を確認したうえで,ワクチン接種の検討を行うこととなりました。
検査の結果,ピーニャちゃんは伝染病を防御するための十分な抗体価を持っていることがわかりました。そこで3年後に混合ワクチン接種を行うか,再度抗体価をチェックするというプランを提案しました。
迷うなら,調べて,裏づけをとり,実行する。
この単純な手順が,心を乱すような要因により,確実に実行されていないことが意外と多いのではないでしょうか。
大事なわが子と不安というプレッシャーのなかで,冷静さを失わず,手順をふみ,安心を手に入れたTさんを,見習わなければと思うのです。