3日も
“厳しいですが,できるだけやってみます。”
たくさんの猫たちをみてきたKさんには,それだけの説明で十分でした。
それほど,子猫は弱っていたのです。
意識なく横たわり,今にも呼吸が止まりそうです。体温は32度しかありません。生後3ヶ月なのに体重は210gで,通常の1/5しかありません。あきらかな成長障害は,何か先天的な疾患か,慢性的な疾患が隠れていると考えられます。とにかく今は,ショック状態を何とかしなければなりません。
わずかな血液を採取し,血液検査を行い,大腿骨の骨髄内に留置針をセットし,ブドウ糖の点滴を開始しました。
驚くことに3時間後,子猫は意識を回復し,食事をとりました。さらに十分なカロリーをとらせるために,食道チューブより給餌を3時間おきに行いました。輸液と保温を続け,できる限りの処置を行いました。
しかし,治療開始から3日目,子猫が目覚めることはありませんでした。
“すみません。お力になれませんでした。”
“いいえ。そんなことないです。
もう駄目だと思っていたのに,
あれから3日も生きてくれたのですもの。”
柔らかな,Kさんの声が。
たった3日しか生きられなかったと思っていた私には,衝撃的な言葉でした。いくら頑張った所で,助からなければ何の意味もないのでは。難しいと分かっていたのに,3日間頑張らせたことは,子猫にとって本当に良いことだったのかどうか。まるで私の迷いを見透かすように,そして一瞬にして,取り去ってしまったのです。
Kさんは,とてもたくさんの猫のオーナーです。どんなにたくさんの命を預かっていても,1つの命を大切にし,1日を大切に思うKさん。だから,また頼ってくる猫がいるのでしょう。
ほとんど助からないということは,まだ,わずかな可能性があるということ。しかし,わずかな可能性を信じて,ぶれないことは,容易ではないものです。結果が良くないことのほうがずっと多く,信じることがだんだん難しくなるのです。
でも今は,また信じて,可能性にかけたいと思います。
Kさんがいるから。