ほどほど
犬にもアレルギーがあるのですか?と驚かれることがよくあります。
あるんです。
しかも,とても多く。
昔の日本人には,アレルギー疾患は殆どみられなかったようですが,現代はアレルギーの患者さんがあふれています。例えば,春先の花粉症。
上下水道や衛生管理,抗生物質の恩恵により,感染症が制圧された結果,感染による免疫刺激が減少し,免疫のバランスがかわったことで,アレルギー体質になりやすくなったという説があります。
現代のワンちゃんもペットオーナーの衛生管理意識の向上や,動物医療の向上で感染症が少なくなる一方で,免疫のバランスが変化し,アレルギー疾患が増えているのかもしれません。アレルギー疾患の無かった時代より,人と犬の寿命は飛躍的に延びており,いまさら感染症の時代に戻るわけにはいきませんが,過剰に清潔なのも考えものでしょう。
それが理由というわけでもないですが,私は,床に落ちたものでも,ふっと息で埃を払って,食べてしまいます。
Sさん宅のイブちゃんは,メスの柴犬。
3歳の頃から春になると皮膚に痒みが生じ,年々痒みの期間が長くなり,ついに年中痒みがでるようになったというこことで,6歳の時に当院に来院されました。
目と口の周りの毛が抜け皮膚が黒くなり,まるでパンダのような外観。体中の毛が抜け,診察台にフケが多量に落ちてきます。わきの下や内股も皮膚が黒くかわり,体中無数に発疹ができていました。
イブちゃんは,病歴,症状,犬種,内服薬に対する反応などから,アレルギー性皮膚炎と診断されました。
アレルギー体質は,内服薬などで症状を緩和することはできますが,体質そのものが治るというわけではありません。一度花粉症になった人が,毎年発症し,徐々に悪化するように,完治するわけではないのです。したがって,完全に痒みをとって,副作用を出すより,ある程度の痒みは許容しつつ,生活の質を上げることを目標に治療を行います。
犬のアレルギー性皮膚炎の治療には,副腎皮質ホルモン剤が著効するものの,長期の連用は糖尿病,膵炎,肝障害などの副作用をまねくため,いかに少量の副腎皮質ホルモン剤により生活の質を上げられるかが,ポイントとなります。
Sさんには,イブちゃんの体表の細菌やアレルゲンの除去のためにできるだけ回数多くシャンプーを行っていただきました。ハウスダストを減らすため,床はフローリングとして,掃除機を頻繁にかけていただきました。食事は,体内に入るアレルゲンを減らし,皮膚バリア機能を強くする脂肪酸を強化した特別な処方食を用いました。そして,副作用の極めて少ない抗ヒスタミン剤を毎日飲むことにしました。その結果,副腎皮質ホルモン剤は5日に1回程度の投薬ですみ,痒みの少ない生活と美しい被毛を取り戻すことができました。
イブちゃんは,アレルギー性皮膚炎と診断されてから,もう5年の投薬を続けていますが,副腎皮質ホルモン剤の副作用は認められず,たまに痒くなることはあっても,掻き壊さずに快適な生活を送っています。
それは,長年にわたりSさんが副腎皮質ホルモン剤を減薬するために,努力を続けた結果といえるでしょう。
感染症がコントロールされると,アレルギー疾患が増加。
インフルエンザがタミフルやリレンザでコントロールされると,薬剤耐性のウイルスにおびえる。
得るものがあれば,なにかしら失うものがあるのかもしれません。
だから痒みとは,ほどほどにつきあってあげて,
きれい好きもほどほどにして。
だからって,下に落ちたもの食べる理由にはならないですか。
食べてないです。
美女と子供のまえでは。
あっ,妻に怒られる