ピカプリにご用心
夜間診療の当番医では,電話ばかりという夜もあります。
プルルルルル。
早々の電話です。
“留守の間に,ゴキブリ退治の薬を食べてしまって,大丈夫でしょうか?”
よく伺うと,仕事から帰ったら,市販のゴキブリ退治の薬を置いていた場所が荒らされており,もしかしたら飼犬のダックスフントが食べたのかもしれないとのこと。本人は元気に尻尾を振っている様子。発見してから,1時間はたっているようです。
中毒のご相談の時には,お話しながら,素早く思考を巡らせます。おそらくホウ酸ダンゴのことかな?ゴキブリの体重がどれくらいだろう。5gとしたら,ダックスが5000gで,約1000倍。ホウ酸の致死量が分からないけど,問題ない可能性のほうが高そうだ。本当に食べたのなら,もう吸収されて,症状が出ているはず。ということで,
“おそらく,大丈夫です,おかしい様子があったら,もう一度電話ください。”
注)後で調べたら,摂取量によっては危険だそうです。特に自家製のものはホウ酸の含有量が多くなり危険。子供やペットの届く所には絶対に置かないでくださいね。
プルルルルル。
直ぐに2件目の電話がなりました。今夜は忙しくなりそうです。
“うちの猫がゴキブリ食べたんですけど,大丈夫でしょうか?”と若い女性の声。
“大丈夫です。”
“口からゴキブリの足が出ているんですが。”
少し興奮気味に,リアルに話される方です。
“大丈夫です。”
二言しゃべっただけで,電話が切れてしまった。今夜はどうも,ゴキブリが多いなあ。しかし,女性は何故あんなにゴキブリを嫌うのだろう。見た目はメスのクワガタと大差ないけど,だいぶ扱いがちがう。日本人はイナゴを食べるし,世界的には昆虫を食べる民族のほうが多い。最近は麦が不足,バターが無い,マグロは他の国に持っていかれ・・・,将来さらに食糧難がすすめば,ゴキブリが重要な蛋白源になるかもしれない。彼らは,何でも食べるし,環境変化にも強く,繁殖力は旺盛,肉になるまで時間もかからず,いいことずくめだ。問題は,食べる人の気持ちで,とりあえずゴキブリの名前をかわいくしてみたらどうだろう。
例えば・・・そう,“ピカプリ”。
ピカっとしていて,大きいのはプリッとしている。響きもピカチュウみたいで結構かわいい。似た名前のハリウッドスターいたね。ピカプリオ。
各国首脳が集まる晩餐で,フレンチコースの1品になれば,だいぶ意識が変わるはず。洞爺湖サミットに“ノルウェー産ピカプリとオマール海老の初夏の出会いキャビア添え”なんて素敵だな。どうせなら,おじさんより,きれいな女優さんに食べてもらって生中継?ピカプリを食べても絵になる女性は・・・。
プルルルルル。
妄想から呼び戻す電話の音が。
“あのう,うちのタマが,ピカプリホイホイにはまってしまって・・・。”