ふさふさ
Sさん宅のアミちゃんは,8歳のシーズー犬の女の子。半年ほど前から毛が抜け始め,下半身が貧毛になったということで来院されました。
よく観察してみると,皮膚炎はなく,フケが多くでているわけでもなく,上半身と比べると,確かに下半身のほうが薄いなあという印象です。
炎症や痒みのない脱毛には,副腎,甲状腺,性腺などの内分泌器官の異常,栄養障害,消耗性疾患,ストレスなどにより毛周期のリズムが早くなり,多数の毛が休止期となって抜けることが知られています。
これらの原因を追究するには,血液検査,ホルモン濃度測定,不妊手術処置による反応,皮膚組織検査などを組み合わせて行う必要があります。
アミちゃんの脱毛は比較的軽度で,症状から全身疾患の可能性も低いと思われたため,ご相談の結果,おやつを止めてバランスのよい処方食だけを与えて,観察期間を設けることにしました。
毛が見られてきたのは処方食を開始して2ヵ月後のことでした。
“先生,おかげさまで良くなってきました。食事って大事なんですね。こんなに違うんですね。”
と驚き顔のSさんです。
“犬の被毛は,草花と同じだと思うんです。綺麗な花が咲くには,その花に合う土地が必要です。栄養過多でもバランスが悪くても,花は咲かない。わんちゃんだって同じではないでしょうか。”
そして,寒いときは寒いというストレスを与えたほうが,ちゃんと体が対応して豊かな被毛となります。洋服を着せて寒さをしのげば,毛は必要なくなってしまいます。元気な若いうちは,過保護にせず,バランスの良い食事を適量与えるのはもちろんのこと,寒いというストレスを与えることも大切ではないでしょうか。着せ替えの服で飾るのではなく,内から輝く毛艶を誇ってほしい。そんなふうに思うのです。
“いやあ,ホントにアミはいい女でしょ。”
と,とてもうれしそうなSさん。見た目は渋いジェントルマンですが,とかくアミちゃんのことになると目じりが下がりっぱなしで,ギャップがとても素敵です。
“毛が生えてきて良かったですね。とっても可愛いくなりました。”
“ところで先生,俺の頭にもいいのないですか?”
と,頭をなでながらSさん。
“・・・それはちょっと, 分かりかねます。”