魔法
Tさん宅のナナちゃんは,5歳のミニチュア・ダックスフント。昨夜から目が充血しているとのことで来院されました。
よく観察してみると,眼球の結膜下で出血を起こし,両目とも白目が真っ赤になっています。耳介にも紫斑が認められ,出血傾向になっていることがわかりました。血液検査では,血を固める細胞である血小板が殆ど認められないため,血小板減少症による出血傾向と考えられました。
ご相談の結果,なぜ血小板が減少したのか原因追求のため,骨髄検査を行うことになりました。
骨髄検査では,血小板をつくる大本の細胞が認められ,骨髄内に浸潤する腫瘍細胞などは認められませんでした。したがって,ナナちゃんの血小板は骨髄の中では作られているものの,血液中に出てから,自己免疫によって,壊されていると考えられました。
すぐに強力な免疫抑制療法が開始されました。骨髄検査は,コストと麻酔のリスクというデメリットがありますが,診断がつくと強力な治療を行えるというメリットがあります。数種類の免疫抑制剤の併用によりナナちゃんの血小板数は徐々に回復し,一ヵ月ごとの定期検査を行ってお薬を減量していくことが可能となりました。
定期検査のある日のこと,すっかり元通りの目になったナナちゃんを抱っこしたTさんが,
“まるで魔法みたいです。薬ってすごいですねえ。”
真っ赤だった目が治っていくのは,まるで魔法のようだったかもしれません。その魔法は,Tさんの決断によりみつかり,Tさんによって正しく実行されました。
ナナちゃんを救った魔法使いは,
Tさんご自身,だったんですよ。