思いだけでは…?
Iさん宅のミルクちゃんは,15歳の雄猫です。前日より排便できなくなり,元気と食欲がなくなったということで,来院されました。
身体検査では,軽度の肥満,重度の脱水と宿便が見られ,だいぶぐったりとしています。便秘だけでこんなにぐったりすることは稀で,何か基礎疾患を抱えている可能性があり,詳しく検査をすることになりました。
血液検査では,高血糖と脱水の所見,尿検査では,尿糖とケトン体が検出されました。また,レントゲン検査では結腸内に多量の便が認められました。
ミルクちゃんは,インスリンが不足したために,糖をエネルギーとすることができず,脂肪をエネルギー源とした結果,体内にケトン体が多量にうまれ,糖尿病の重篤な状態であるケトアシドーシスになっていることが分かりました。
ミルクちゃんは,即入院となりインスリン投与を中心とする集中的な治療を行うことになりました。
幸い,インスリン治療によく反応し,数日後には尿からケトン体も検出されなくなり,元気がでてきました。しかし,その後も食事には全く口をつけてくれませんでした。
ご相談の結果,入院のストレスを減らすために,一度退院してみることになりました。
それから二週間後,Iさんがインスリンの注射器をとりに来院されました。
“入院前の元気だった頃よりも,もっと元気になりました。本当にありがとうございました。”
とIさん。
“どうなることかと思いましたが,おうちに帰ってみて良かったですね。きっとお母様の思いが通じたんですね。”
“違うわよ。思いだけで治ったら医者はいらないもの。”
とIさん。
それはそうかもしれませんが・・・。と心の中でつぶやきつつ,Iさんの晴れやかな声をとても嬉しく思いました。
一時は,あきらめかけた時がありましたね。初めて行う皮下注射に,不安でいっぱいな時もありましたね。今では,動き回るようになったミルクちゃんの注射が,悪戦苦闘となりました。年だからとあきらめずに,治療を続けるIさんに,心からエールを送ります。