虫
“竜,こんなに元気になりました。ちょっと太っちゃいました。”
“わー,別のワンちゃんかと思いましたよ。”
Yさんが,ミックス犬の竜ちゃんを連れてはじめて病院に来たのは,1年前のことでした。
1ヶ月ほど前から下痢が続き,最近は食欲もなくなってきたという事でした。
身体検査では,とても痩せていて,毛並みは粗く,結膜や舌の色が白く見え,貧血が疑われました。皮膚には全身にマダニが寄生していました。
糞便検査では,鞭中という寄生虫が見つかりました。鞭虫は結腸や盲腸に寄生し,血便や慢性の下痢を引き起こします。また,ダニの寄生は吸血することだけが病害ではなく,血液に寄生して貧血を招くバベシアという寄生虫を媒介します。
竜ちゃんはまず,鞭中の駆虫薬の投与と全身のダニの駆除の治療からスタートしました。しかし,体力が極度に消耗しており,油断できない状況でした。
それから約1年,Yさんは毎月欠かさずダニの予防薬を竜ちゃんに行っています。定期的な糞便検査と駆虫薬の投与により,下痢も完治した竜ちゃんは,とても美しい毛並みになりました。久しぶりに見た竜ちゃんの顔は,なんだか優しくなったように見えます。
“先生,ダニやお腹の虫であんなに痩せるんですね。もう絶対つかないようにするわ。”
とYさん。
“そうですね,多量の寄生は,命にかかわる事があるんですよ。でも今度はあんまり太らせないでくださいね。”
“私も竜と一緒に少し虫でも飲もうかしら。”
“・・・や,や,やめてください。”
今日は嬉しい心配をして,大笑いのYさんとふっくらした竜ちゃんを見送りました。