眠れなくても
高齢のペットの中には,まるで子供に帰ったかのように甘えたり,おいしい食事を要求したりする子がいます。
Iさん家のチビちゃんは16歳の三毛猫で,昨年の暮れ頃から,めっぽうわがままになり,一度口にした食事は食べようとしないとのこと。では,元気が無くて他に症状があるかというと全くなし。新しいフードが出てくるまで,顔を見ながらずっと鳴き続けるそう。血液検査,尿検査,レントゲン検査などでも大きな異常は無く,生理的な脳の老齢性変化と考えられた。
そんなチビちゃんをいつも可愛がり大切にしているIさんが,疲れた様子で病院にいらっしゃった。
“朝の四時くらいから鳴き出すんです。ご飯あげてもなきやまないし,眠れなくて私もうへとへとです。もう死んでくれたらいいのになんて思っちゃって・・・。”
と,だいぶ悩まれている様子。
Iさんが疲れ果ててしまっては,老ネコの看護はできません。チビちゃんには日中十分に活動させることで,夜間は眠れるようにし,あわせて夜少し眠れるようにお薬を処方した。
翌朝,お電話をいただいた。
“先生,チビが薬を飲んだ後,眠ってしまって,呼んでも起きないんです。もう駄目かと思いました。私あんなこと言ったけど,やっぱりチビが死ぬのかと思うと悲しくて悲しくて・・・一睡もできませんでした。”
“今チビちゃんはどうしていますか?”
“今は普通にしているんですが”
どうやらお薬が,チビちゃんによく効いたものの,Iさんには効きすぎた様です。
“先生,やっぱりお薬飲ませないで頑張ってみるわ。あともう少しの寿命だし,ここまできたら最後まで見てやろうと思って。”
現在チビちゃんは,時々お薬を飲みながら,Iさんと暮らしている。Iさんをたくさん困らせながら,たくさん愛情をもらっている。そのことがいつかIさんにとって,かけがえのない思い出となるに違いない。