繋ぐ
ヨウムは,大型のインコで,知能が高く,人の言葉をよく覚えることが知られています。平均寿命は50年前後といわれています。
ある日,S夫婦の家にヨウムの幼鳥が迎えられました。そのヨウムは亜加(あか)と名付けられました。
新しい環境におびえる亜加ちゃんに,S夫人は,‟こわくないんだよー”と優しく話しかけました。
夕方には,夕焼け小焼けを歌ってきかせ,日が沈むと,籠にカバーをかけて,子守歌を歌ってあげました。
朝が来ると,カバーをあげて,‟おはよう,よく寝たかい?”と話しかけました。
クリスマスには,ジングルベルを歌い,暖かくなると‟はーるのー,うらーらーのー,すーみーだーがーわー”と,歌って聞かせました。
S夫妻は,まるで我が子のように,亜加ちゃんをたくさん可愛がりました。
しかし,二人と一羽の生活は,永くありませんでした。S夫婦が,高齢だったからです。
亜加ちゃんが6才の時に,S氏が天国に旅立ちました。
そして,亜加ちゃんが14才の時に,S夫人が入院することになりました。
マンションの一室で,亜加ちゃんは,初めてひとりの朝を迎えたのでした。
亜加ちゃんは,S夫人の一番小さな親友の父親,F氏に引き取られました。
S夫人は,自分の時間が少ないことを知り,亜加ちゃんをF氏に託したのでした。
病床で,何かお手伝いすることを聞いたF氏に,S夫人は言いました。
‟貴方は,亜加のことだけ見てくれたらいいわ。もう,貴方のものだから,煮るなり焼くなりしたって,いいのよ。”
‟大丈夫です。任せて下さい。”
それからまもなく,S夫人は,天国に旅立ちました。
今,亜加ちゃんは,当院で朗らかに歌っています。
S夫人が歌ってくれた歌を,季節にあわせて。
診察室に入るワンちゃんに,‟こわくないんだょー”と,話しかけます。
小さな女の子が帰る時には,‟バイバ~イ”と陽気に見送ります。
昼休みに,誰も相手をしてくれないと,S夫人の名を呼んでいます。
まるで,S夫人がどんなふうに亜加ちゃんと暮らしていたか,亜加ちゃんが教えてくれているようです。
動物が人をみとり,物語を語り継ぐことがあるのですね。
さて,亜加ちゃんと私の寿命のどちらが先か,いい勝負でしょうか。
もしかしたら亜加ちゃんは,その生涯で3つの命を見送ることになるのかもしれません。
でも,亜加ちゃんを見ていると,悲しみは決して乗り越えられないものではないように思います。
見守ってくれる人さえいれば。
私が先に逝くことになれば,次はS夫人が一番小さな親友だと言った娘の所に,亜加ちゃんは行きます。
その時は,そこで,私の名も,きっと呼んでくれることでしょう。
☆2016年4月の熊本地震により亡くなられた方々に謹んでお悔やみを申し上げるとともに,被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。
微力ではありますが,ふかみ動物病院として,義援金10万円を日本赤十字社に寄付しました。