若返りの薬
#C7243A中高齢の犬に,甲状腺機能低下症という疾患があります。甲状腺とは,甲状腺ホルモンを分泌する腺組織で,頚部の気管の両側にあります。その腺組織が免疫性に壊されたために,甲状腺ホルモンの分泌量が少なくなり,様々な症状を起こすのが甲状腺機能低下症です。甲状腺ホルモンは代謝をよくするホルモンですから,その欠乏は代謝の低下を招きます。例えば,毛艶が悪い,毛が薄くなる,疲れやすい,肥満,神経障害などが認められます。
Hさん宅の小太郎ちゃんは,13才のミニチュアダックスフント,顔以外の毛が殆どなくなってしまい来院されました。
皮膚に発疹や炎症は認められず,痒みもないということでした。症状よりホルモン性の脱毛が疑われたため,全身的な血液のスクリーニング検査を行いました。軽度の貧血とコレステロールの上昇が認められ,甲状腺機能低下症が示唆されました。
さらに診断を進めるため,血中の遊離甲状腺ホルモン濃度と甲状腺刺激ホルモン濃度の測定を行ったところ,遊離甲状腺ホルモン濃度は,極めて低値で,甲状腺刺激ホルモンは高値であることがわかりました。脳の下垂体というところでは,盛んに甲状腺刺激ホルモンを分泌して,甲状腺に働きかけているのですが,甲状腺は全く仕事をしていないということが読み取れました。
小太郎ちゃんは原発性甲状腺機能低下症であることが分かり,甲状腺ホルモンの内服を開始することになりました。
3ヵ月後,ワクチン接種に来院した小太郎ちゃん。
以前のように,毛がふさふさになっています。
“先生,年だから元気ないのだと思っていたのに,まるで若い時のように,いたずらもするようになって,とっても活発になったのよ。まるで,若返りの薬ね。”
“若返りましたか。これが本当のこたちゃんの姿なんですよ。ねぇ,こたちゃん。”
診察台の上が大好きなこたちゃん。今日はいっそう尾を振って,笑っている気がしました。
注)当院では,人に若返りのお薬を処方しておりません。なお,甲状腺機能低下症ではない方が,甲状腺製剤を飲んだ場合,甲状腺機能亢進症の症状を示して健康を害します。