ルー
“先生,フィラリアの薬って人が飲んでも平気ですか?”
“また急に,どうしたんですか?”
Sさんの不意な質問に驚いて,訳を伺うと。
“実はね,この間私が外出している時に,旦那がカレーを作ったのよ。普段やりもしないのに。”
“まあ,いいご主人じゃないですか。”
“それが,よく見たらフィラリアの薬が1個ないの。ルーと間違えて入れちゃったみたいなのよ。”
と笑いながらSさん。
“そう言われれば,チュアブルタイプのお薬は,ルーに似ているといえば似ていますね。でも,普通は間違えないですよ。”
“そうでしょ。冷蔵庫に入れていたから,勘違いしたみたいなの。ほんと,ドジなんだから。”
と少し怒り気味。
“ワンちゃんでは,皮膚疾患の治療にフィラリア予防薬の濃度の100倍くらいの量を,毎日投与することがあるんですよ。人での毒性試験のデータは手元にありませんが,まず問題ないと思います。今のところ問題はおきてないようですし。”
と,お話してSさんの顔を覗くと。
“私は,食べてないの。家族は食べたけど。”
イタズラな微笑みのSさんです。
“なんとまあ,じゃあ,味見はしてないんですね。カレーの隠し味にしてはちょっと高価ですし,次からは気をつけてくださいね。”
“もう冷蔵庫には入れないわ。もったいないもの。”
そう言って,フィラリア予防薬を1つ,足りなくなった分を買って行かれました。
そんな話に,みんなで大笑いしつつ,Sさんと家族の微妙な絆を感じて,私もあらためて家族を振り返ってみた,夏の午後でした。