10分
“いなくなってるかしら,先生。もしまだ生きてたらどうしましょう。でも今とっても元気だし,その時はその時ね。もう一回チャレンジすればいいわね。”
“大丈夫です。100%とは言いませんが,98%以上の駆虫効果があります。きっと陰性です。”
とは言ったものの,もし抗原検査で陽性となれば,すなわち駆虫は不成功という結論,駆虫薬の投与に耐えたサム君とOさんの期待を裏切ることになり,責任重大です。
Oさん宅のサム君が,心臓に寄生したフィラリアを駆虫するために来院したのは,昨年の夏のことでした。Oさんがポインターのサム君を保護した時には,すでにフィラリアが寄生し,血液検査で陽性反応が出ていました。
サム君はレントゲン検査と超音波検査の結果,フィラリアによる心・肺のダメージが小さく,フィラリア成虫駆虫にサム君が耐えうると評価されました。しかし,フィラリアの駆虫は絶対に安全と言えるものではありません。またフィラリアを生かしておくことも,フィラリアの急性症といって心臓の弁膜に虫体が絡み,突然死する危険性,また虫体と血管内膜の物理的刺激により,肺高血圧が進行し慢性症に移行する危険性があります。
Oさんは熟慮の末,フィラリア症の様々な病態を回避し,サム君のポインターとしての本来の運動能力を取り戻すため,駆虫することを決断されたのでした。
サム君の駆虫から,早いものでもう一年近くになります。今年のフィラリア予防の前に,現在感染していないか確認するための血液検査を行う日が来ました。それは,昨年の成虫駆虫の成果の判定でもあります。
サム君の血液と試薬を混合し,判定キットに滴下します。10分間で,判定が下されます。
ほんの10分の判定時間ですが,今日の検査は長く感じられます。きっとOさんにとっても,長い待ち時間であったでしょう。
10分後,はっきりとラインが一本だけ,検査キットに現れました。
体は大きいけれど,気は優しくて,病院では固まってしまうサム君。今日は,いつもより一段と嬉しそうに,弾むように帰っていった様に見えたのは,私だけでしょうか。
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