“演者は,これまで3羽,うさぎを麻酔で死なせました。今回,うさぎの麻酔事故が減ることを願って,その失敗を発表します。”
千葉県獣医師会の学術年次大会の演題の1つ,うさぎの気管挿管の発表は,そんな一声からはじまりました。
うさぎの体の中の殆どは,胃腸が占めており,体と比較して肺は非常に小さいです。麻酔では,呼吸管理が非常に重要になるのですが,口腔の構造上,気管の入り口を目視することができず,気管挿管が困難です。そのため,犬と猫では必ず実施される気管挿管が,うさぎでは行われていません。うさぎの気管挿管は,内視鏡を使うことで容易になります。うさぎの気管挿管に使われる気管チューブのサイズの記述は,ほとんどなく,私が調べた限り,2.5㎏のウサギには,2.5㎜の気管チューブを挿管できるということだけでした。
そのため,気管挿管を行う前には,X線検査を行って気管のサイズを測定する必要がありました。
気管挿管を始めてから5年になり,症例数が蓄積したため,体重から気管チューブのサイズを選択することができるようになりました。現在は,全身麻酔の前に,気管チューブのサイズの測定目的で,X線検査を行うことはありません。
気管チューブを挿管すると,呼吸管理が確実となり,安定した麻酔処置が可能となります。
麻酔事故の経験と,それを踏まえてどのように対処しているかを考察して発表を終わりました。
コロナ下であるため,オンラインの学会でした。聞き手の表情は見えません。1人でも,私の想いが伝わったら良いな,そんなことを考えていました。
発表から1か月後,狂犬病集合注射の会場でのこと。若手の獣医師から声をかけられました。
“先生,先日の気管挿管の発表みました。挿管って,どのくらいの時間でできるものなのですか?”
マスク,フェイスシールド,ゴム手袋を着用しての集合注射の疲れが吹っ飛ぶような,嬉しい質問でした。
最新の方法が,常に最適とは限らず,慣れた手段を手放すことは,時に勇気がいります。それでも,麻酔手術が安全ですよ,と言える日が来るように,獣医師は勉強を続けていかなければなりません。
わが子を麻酔事故で亡くしたにも関わらず,診察を続けて下さいと言われた飼い主さんとうさぎのために。
Nichibu&Eight`S mama
2021年8月17日 @ 3:14 AM
学術年次大会の演題とても興味深いものです。
医師同士お声かけしあいながら切磋琢磨する姿に感動致しました。
ひとつでも多くの命が救われるよう安心した診察、処置が出来ていくことを日々祈っております。
動物たち、飼い主様とのコミュニケーションもコロナ禍では苦労もあるかと思いますが、先生やスタッフの方々もご自愛くださいますようお願い申し上げます。
陰ながら応援させていただきます。
ありがとうございました。また、お会い出来る日まで。