顔色
Hさん宅のジョンくんは,6歳のオスのミニチュア・ダックスフント。便が出づらいという症状で来院されました。
身体検査では,肛門の右側の皮膚が大きく盛り上がっていました。直腸検査(直腸内に指を入れて,直腸の状態を確認します)を行うと,直腸が,肛門の右側の皮下に屈曲し,便が貯まっていることが分かりました。
ジョン君は会陰ヘルニア(えいんヘルニア)になっていました。
会陰ヘルニアは,去勢していない中高齢の雄犬によく見られる疾患です。男性ホルモンの影響でおしり回りの筋肉が弱くなり,その筋肉の間から直腸や膀胱が飛び出すために,便を出しづらくなったり,尿を出すことができなくなってしまいます。
治療は,ヘルニアを起こしている部位を修復するための外科手術と,更に筋肉が弱くなるのを防ぐために去勢手術を行うことが適切です。
3日後ジョン君は無事に手術が終わり,更に2週間後,抜糸のために来院されました。
排便は順調とのことで,抜糸もスムーズにおわりました。今後の注意点として,会陰ヘルニアは再発することが多いこと,手術を行ってない側,ジョン君の場合は肛門の左側は手術を行った側と比べ弱いため,今後その部位にヘルニアを起こす可能性があることをお話しました。
何か気になることがないかお聞きすると。
“手術すると,顔が変わるのですか?”
とHさん。
思いがけない質問に,ドッキリしつつ,
“ど,どう,かわりました?”
とお尋ねすると。
“子供たちが,ジョンの顔が優しくなったっていうんです。”
なるほど,今まで便秘で苦しんでいた顔が,苦痛から解放されて,優しい顔になったのでしょう。
今の顔が,本来のジョン君の顔なのです。
そして,それに気づいたということは,ジョン君は家族に顔をよく見てもらっているということであり,とても愛されているということなのですね。