見えるようになったら
Tさん宅のしろんちゃんは,真っ白な被毛にブラックのアイラインが,とってもチャーミングなうさぎさんです。
しろんちゃんは,急性の食欲不振の症状を示し,対症療法を行いましたが,改善が認められないため血液検査を行いました。その結果,腎障害があり,尿毒症になっていることが分かりました。
うさぎの腎障害には,尿毒症を改善させるための補液をおこなうことが,治療のかなめです。尿毒症を改善させることで,食欲や元気が出て,生活の質が良くなるのです。しかし,障害された腎機能が回復するわけではなく,むしろ腎機能の低下は進行します。
その日から,Tさんとしろんちゃんの通院が始まりました。
血液検査の値から,長くはもたないと思われたしろんちゃんでしたが,Tさんの愛情と,補液を素直に受けるしろんちゃんのおかげか,1ヶ月を過ぎました。
それでもしろんちゃんの体重は徐々に低下し,白内障もすすみ,すっかり光を失ったようでした。
そんなしろんちゃんを連れ,雨の日も,雪の日もTさんは一日も欠かすことなく通院されました。
ベルの音を聞き,
凧があがり,
遅い雪を見て,
梅の香りにつつまれ,
満開の桜が散る頃・・・
しろんちゃんは,Tさんに抱かれ,旅立ちました。
9歳と9ヶ月でした。
“先生,しろんが逝ったあと,白かった目が,濁りがすーっと消えて黒くなったんです。こんなことってあるんですか?”
Tさんからそんなご質問をいただきました。
老年性白内障とは,皮質か核に始まり,最終的には全体に進み,やがて混濁が強くなり,成熟白内障となり・・・, そんなことは,もういいんです。
濁りが消えたのは,間違いがないのだから。
今,しろんちゃんは,光を取り戻し,お空からTさんを見ているのだから。
それが,Tさんとしろんちゃんの 奇跡だから。