パートナー
強制給餌と呼ばれる処置があります。主に栄養の供給のために,強制的に消化管に食事を入れる処置のことを指します。鼻,咽喉頭,頚部の食道,胃,などにカテーテルを設置して流動食を投与しますが,日常的には注射ポンプなどを用いて,口からいれることが多いようです。この処置は,そもそも食欲が無い場合に仕方なく行うものですから,口の中へ食事を入れる事には,殆どのペットが協力的でなく,看護する人もされるペットにも辛抱と根気が必要です。
Aさんのひとみちゃんは,チャーミングな顔とスレンダーなボディの黒猫です。
ひとみちゃんは,数年前に高窒素血症となり,以来低蛋白食による食事療法を継続されています。
本日は,久しぶりに血液検査と尿検査を行い,腎機能を中心にチェックを行うことになりました。
幸い,血液検査では基準値範囲内,尿の濃縮力も十分であり,異常は見られませんでした。
実はAさんは,療法食を裏ごしして滑らかにし,小さなスポイトに何本も詰め,ひとみちゃんの口の中へ入れるという処置を毎日欠かさず,長年にわたり行ってきたのでした。ひとみちゃんの,現在の元気な姿は,Aさんの努力の賜物です。
“これなら,食事療法を卒業できますね。”と私。
すると意外な言葉が返ってきました。
“先生,害にならないなら今の方法で療法食を続けようと思うのですが。”
“もちろん,害になるということはありませんが,なにより大変でしょう。”
よくお話を伺うと,ひとみちゃんは食事に殆ど興味が無く,口に入れなければ全く食べないそう。どうせ食べさせるなら,今後のことも考えて腎のケアが出来るものをということでした。
今日もひとみちゃんは,Aさんの看護を受けていることでしょう。Aさんと出会わなければ,今の元気な姿は無かったであろうひとみちゃん。二人の姿を考えると,頭が下がります。そして二人の絆を思うと,とても温かな気持ちになるのです。